令和3年度論文

水環境科(水質環境担当)

Laboratory studies on the biodegradation of organisms for estimating carbon storage potential in coastal aquatic ecosystems

Ishii,Y, Kokubu,H, Miyazaki,H, Borjigin,S, Yabe,T

Coastal Engineering Journal 63:3, p.323-334(2021)

浅い沿岸地域における短寿命生物の難分解性炭素画分を迅速な生分解実験により調査し、炭素貯蔵としての可能性を評価した。海藻や植物プランクトンなどの一次生産者の難分解性画分は、全炭素含有量の31.2%〜44.0%を占めていた。海草のZostera marina(アマモ)は難分解性炭素の含有率が高く、Zostera marina(アマモ)の地下部の炭素の83.4%が難分解性であり、大きな炭素貯蔵の機能を有していることが示唆された。二枚貝および腹足類の軟部組織における難分解性炭素の含有量は約8.5%−31.5%であり、節足動物および棘皮動物などの他のマクロベントスは29.7%−52.0%であった。軟体動物の殻中の残留炭素は、ほとんどが粒子状の無機炭素であった。さらに、貝殻等の生物由来の鉱物構造体(バイオミネラル)中の難分解性有機炭素の4.0%−19.1%が足糸のような多糖類および/またはタンパク質に由来した。浅い沿岸地帯の貝殻の量を考えると、この有機炭素は実効的な炭素貯蔵であると考えられた。結果として、一次生産者だけでなく、マクロベントスや固着した動物も沿岸水生生態系において重要な炭素貯蔵機能を有していることが示唆された。

Numerical Assessment of Total Nitrogen (Tn) Load Discharged from Rivers into Harima-Nada, the Seto Inland Sea, Using A Numerical Coupled Hydrological-Water Quality Model

V Pintos Andreoli, M Mori, Y Koga, H Shimadera, M Suzuki, T Matsuo, A Kondo

IOP Conference Series: Earth and Environmental Science, 801(1), 012009, 1-8 (2021)

瀬戸内海播磨灘への河川水量と全窒素(TN)負荷量について、水文水質モデルにより評価した。用いたモデルの精度は、北部と南部の主要な河川である加古川と吉野川について確認した。評価の結果、河川水量とTN負荷量の主な寄与源は、兵庫県河川からであることを示した。各河川の流域面積よりも土地利用のほうが、TN負荷量に与える影響が大きかった。2009年〜2016年の8年間、河川水量の変動は大きかったが、TN負荷量の年平均はほぼ一定と推算された。

瀬戸内海における海水中有機物のC:N:P比と窒素・りん濃度の関係性について

鈴木 元治, 栢原 博幸, 大島 詔, 中村 玄, 向井 健悟, 藤田 和男, 小田 新一郎, 宇都宮 涼, 浅川 愛, 管生 伸矢, 安藤 真由美, 秋吉 貴太, 柳 明洋, 松尾 剛, 藤原 建紀

全国環境研会誌, 46(3), 42-49(2021)

瀬戸内海の表層水について,溶存有機物(DOM)及び粒状有機物(POM)の炭素:窒素:りんモル比(C:N:P比)を測定し,窒素・りん濃度との関係性を調べた。調査した62測点の全てのC:N比及びC:P比は,POMは4割程度,DOMは9割以上がレッドフィールド比(C:N比=6.63,C:P比=106)よりも大きかった。また,有機態窒素・りん濃度が低い海域ほどC:N比及びC:P比が大きくなる傾向がみられ,その傾向はPOMよりもDOMのほうが顕著であった。C:N比及びC:P比の大きな有機物は,難分解性である傾向がある。このことから,瀬戸内海では,有機態窒素・りん濃度が低い低栄養の海域ほど,分解されにくいDOMの割合が大きいことが示唆された。

窒素・リン削減が海域の有機物量 (CODおよびTOC) に及ぼす影響

藤原建紀, 鈴木元治, 大久保慧, 永尾謙太郎

水環境学会誌, 44(5), 135-148(2021)

日本の多くの閉鎖性海域で全窒素TN,全リンTP 濃度は大きく低下した。しかし,有機物指標である化学的酸素要求量COD は低下しない現象が多くみられ,この原因を調べた。結果:(1)海域のTN 低下によって,海水中の有機態窒素濃度は低下するものの,有機態炭素TOC およびCOD は低下しなかった。つまり,海域の有機物の炭素:窒素比(C:N 比)が上昇することによって,TOC およびCOD が低下しない現象が起きていた。(2)同様な,窒素欠乏に伴う植物体有機物のC:N 比上昇(有機物の窒素含量の大きな低下,炭素含量のわずかな低下)が海藻でもみられた。(3)この,植物一般にみられる特性は,海水の栄養塩濃度が湾内で作られる有機物の性質(C:N 比等)を決めていることを示唆している。(4) COD とTOC の関係は,場所的および経年的に変化していた。(5)内湾での栄養塩削減は,有機物の量を減らすよりも,質を変えた。

窒素・リン削減が海域の有機物量 (CODおよびTOC) に及ぼす影響:削減の効果とその作用機構

藤原建紀, 鈴木元治, 大久保慧

水環境学会誌, 44(6), 185-193(2021)

全国の海域での栄養塩類削減により,全窒素(TN)・全リン(TP)の環境基準達成率はそれぞれ96%および95%に達した。それにも関わらず,化学的酸素消費量(COD)の達成率は最近30 年間ほとんど変わっていない。この相違の原因を,大阪湾を例に調べた。TN 削減により植物プランクトンの高濃度のブルーム(赤潮)の発生を抑制するという富栄養対策が有効に作用していた。このことは粒状態有機物に関連する水質指標によく現れていた。COD が下がらないのは,主に溶存態有機物に原因があると考えられた。海域のTN濃度低下により,海域の有機物(溶存態および粒状態を含む)のC:N 比が上昇し,窒素で測った有機物量は低下するものの,炭素で測った有機物量の低下はわずかであった。またCOD とTOC の乖離が起きていた。栄養塩削減で海域の有機物の質(C:N 比等)が変わり,COD が低下しないことは,東京湾・伊勢湾と共通していた。

出水時の加古川・損保川流域における栄養塩負荷量特性の把握

古賀佑太郎, 鈴木元治, PINTOS Valentina

水文・水資源学会誌,  35(1), 32-40(2022)

瀬戸内海東部に位置する播磨灘に流入する加古川及び揖保川について,2015年から2017年までの出水時の栄養塩類濃度を測定し、栄養塩類負荷量の変化を調査した.出水時の全窒素(TN)・全りん(TP)負荷量を平水時と比較すると,最大増加率はTNが12倍,TPが31倍であった.河川流量増加に伴いTN・TP濃度が増加したが,形態別では同様の挙動を示さないものがあり,河川によっても違いが見られた.河川流量と形態別の負荷量の関係を見ると,ヒステリシス効果が確認できたが,形態によっては加古川で反時計回り,揖保川で時計回りループが見られ,土地利用等の違いによるものと推察された.

水環境科(安全科学担当)

イベルメクチン(対象媒体:水)

栫 拓也

化学物質と環境 令和2年度化学物質分析法開発調査報告書 p53-87(2022)

イベルメクチンは駆虫剤として使用される医薬品であり、新型コロナウイルスの治療薬候補としても注目されている。しかし、環境水中の濃度の測定事例が限られているため実態調査に向けた分析法が要求された。本研究では水質試料を対象としたイベルメクチンB1a及びイベルメクチンB1bの分析検討を行い、水質試料においてpptレベルでの分析が可能になった。

令和3年度POPs及び関連物質等に関する日韓共同研究業務報告書

Matsumura, C., Sakamoto, K., Kakoi, T., Hasegawa, H., Nishino, T., Kato, M., Tahara, R., Nagahora, S., Yamamoto, H.,

令和3年度POPs及び関連物質等に関する日韓共同研究業務報告書 p5-7(2022)

本研究では環境への影響が懸念されているPPCPs(Pharmaceuticals and personal care products)を対象とし、環境汚染実態を明らかにするため分析法の開発・環境サンプルの分析を行うことを目的とした。兵庫県環境研究センターでは、水環境中の抗生物質とその代謝物、および魚試料中のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(BUVSs)の分析し、実態調査を行った。抗生物質に関しては下水処理場の下流部で上流部より濃度の高くなる物質があり、クラリスロマイシン等PNEC(Predicted No-Effect Concentration)を超える物質も確認された。BUVSsに関しては既報と同程度の濃度が確認された。

令和3年度農薬残留対策総合調査結果

中越 章博, 本田 理,山﨑 富夫,栫 拓也,望月 証,松村 千里

令和3年度農薬残留総合対策調査報告書 p162-177(2022)

水域の生活環境動植物の被害防止に係る登録基準値及び 水質汚濁に係る登録基準値と環境中予測濃度(以下「PEC」 という。)が近接している農薬について、河川における濃度実態の調査及び環境中農薬濃度 が当該基準値等を超えないようにする措置の検証を行うことを目的として本調査を実施している。本年度は千種川水系の河川中のクロチアニジン等のネオニコチノイド系農薬の濃度を4~10月に週1回以上の測定を行い、当該基準を超過していないこと及びクロチアニジン等の河川中の濃度の変化が水稲の農作業に連動していることを確認した。

大気環境科

Evaluation of the effect of Global Sulfur Cap 2020 on a Japanese inland sea area

Moe Tauchi, Kazuyo Yamaji ,Ryohei Nakatsubo, Yoshie Oshita, Katsuhiro Kawamoto, Yasuyuki Itano, Mitsuru Hayashi, Takatoshi Hiraki, Yutaka Takaishi, Ayami Futamura

Case Studies on Transport Policy(2022),in Press

2020年に施行された国際的な硫黄規制により、船舶に使用される燃料油中の硫黄含有量は3.5%から0.5%に減らす必要がある。本研究において、大気中の二酸化硫黄(SO‎2‎)、窒素酸化物(NO)‎x‎)及び微小粒子状物質濃度を、日本の輻輳海域である瀬戸内海において測定したところ、SO2、‎バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、およびV/Ni比の船舶排出指数の急激な低下が観察され、この規制の効果を示唆した。規制後、船上観測により著しいガス状SO2の減少が明らかとなり、‎同様の変化は、2019年から2020年の1月から6月にかけて沿岸地域で観察された。規制の効果を他の要因と区別するためには継続的な研究が必要であるが、これらの知見は、輻輳海域における大気汚染問題に取り組む際に政策立案者にとって有用である。‎

 

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